農村医学は、日本社会の根底にある農村の再生、農業の活性化を視野に入れ、地域社会における医療・保健・福祉を総合的に追及する包括的地域医療の実践を目指しています。農業も医療も人間の生存の基本である生命に深く関わっており、農業は人間の生命の根源となる食物を作り出し、自然を守り環境の保全にも不可欠な存在であります。医療は生命を育み、人間が健全で豊かな社会生活を営むための社会的共通資本としての役割を担っています。現在の医学・医療分野は専門性が高まり最先端医療も目覚しい進歩と遂げています。しかし、医学・医療の根底には、人間の生命の尊厳を守り健康維持と疾病の克服に立ち向かうという永遠・不朽の理念がなくてはなりません。日本農村医学会は、日本医学会における50番目の医学会であり、農村医学の理念のもと、すでに60年余の歴史を有する伝統ある学術団体組織であります。学会員は、全国の厚生連病院や大学病院、研究所などのスタッフで構成され、現在4510名(医師4,358名、看護師、コメディカル等152名)を擁しております。
 今回の第63回日本農村医学会学術総会は、学会テーマを「地域の創生と農村医学―コミュニティーにおける医療と農業」といたしました。これは、現代社会では健全な地域社会が衰退しつつあり、ヒトを大切にする共助の精神が薄れてきていることが懸念されていることに基づいています。日本農村医学会の指針でもある農村の再生と農業の活性化によって現在の日本社会で最も必要とされているコミュニティーの再構築が実現されると考えるからであります。そして、もうひとつの社会の根底にある医療の方向性としては、地域包括ケアシステムに代表される医療・保健・福祉の地域での融合と一体化が重要な課題であります。
 今回の学会は、各種講演、一般演題、シンポジウム(2題)、ワークショップ(6題)、研修医セッション、ランチョンセミナー(12題)、器械展示等で構成させていただきました。特別講演Iには山海嘉之先生(筑波大学教授)、特別講演IIには藤田紘一郎先生(人間総合科学大学教授)、教育講演には田中雄二郎先生(東京医科歯科大学教授)、そして文化講演には寺本守先生(笠間焼陶芸作家)、市民公開講座には三浦雄一郎先生(プロスキーヤー・冒険家)と多彩で著名な先生方をお招きしております。また日本農村医学会の研究プロジェクトのひとつでもあります農作業事故防止対策につきましては数年来、韓国との連携も深めており、今回の学会でもシンポジウムには韓国からの演者の方をお招きしております。
 日本農村医学会は創設期の理念を念頭に、今後の医療の在り方も見据え、豊かな成熟した社会の創生に向けてしっかりと歩を進めていかなければならないと考えております。つくば市で開催されます第63回日本農村医学会学術総会には全国から大勢の多職種の皆様方がご参集くだることを心よりお待ち申し上げております。